女王様の国は意外と前衛派!? イギリスのテレビ放送局まとめ
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海外ドラマというとどうしてもアメリカ製が主流と思われがち。確かに作品数も放送局の数も世界のNo1だ。でもでもイギリス製のドラマにも驚くほど長命な番組やアメリカでリメイクされるような超人気番組などが目白押し。そこで今回は、日本ともアメリカともちょっと違うイギリスの放送局事情を徹底調査しておきたい。
知ってびっくり! 英国テレビ事情
各放送局についての話の前にどうしても押さえておかなければならないのが、イギリスの放送業界の仕組みだ。
イギリスではテレビのチャンネル数が極端に少なかったことをご存知だろうか? 長い間、BBC ONE、BBC TWO、ITV、Channel4の4局しかなく、5局目のFIVEが開局されたのが1997年。しかも再放送がやたらと多く、ガーデニング番組や自動車番組がプライムタイムに堂々と放送されるという独自な文化だったのだ。
というのも5局全てが公共サービス放送=PBC(Public Service Broadcasting)という位置付けだったからだ。BBC以外のITV、チャンネル4、チャンネル5はいわゆる民放なのにね。「商業放送が公共サービス?」と首を傾げたくなるのだが、「放送事業は公益のため」という紳士の国ならではの大前提から来ているのだそう。
というわけで、実は長い間イギリスではドラマの選択肢があんまりたくさんないのが当たり前だったのだ。こんな背景が、イギリス・ドラマに長寿番組が多いことに関係しているのかもしれない。
イギリス・テレビ界を常にリードするBBC(英国放送協会)
1922年に創業したイギリス初の放送局。受信料で運営される公共放送で、日本でいえばNHKみたいな感じだ。1936年に開始したテレビ放送は世界初だったから、実はアメリカよりも進んでたんだね。
公共放送というとなんとなくお堅い感じだったりファミリー向けの無難な感じを想像しがちだが、海外ドラマファンならBBCのドラマが只者ではない事をよ〜くご存知のはずだ。
まずはBBCのドラマと聞かれて真っ先に思い浮かぶのが『ドクター・フー』。1963年の放送開始以来、半世紀を経て今なお続く世界最長のSFドラマだ。『秘密情報部トーチウッド』や『The Sarah Jane Adventures』といったスピンオフも制作され、イギリスでは絶対に知らない人はいないまさに国民的な人気を誇っている。
近年ではベネディクト・カンバーバッチの出世作となった『SHERLOCK(シャーロック)』の大ヒットが記憶に新しい。シャーロック・ホームズの舞台を現代に置き換え、ガジェットを駆使して事件解決という斬新な発想には世界中が驚いた。ドラマ大国アメリカにも大きな影響を与えた作品だ。
そしてBBCのもう一つの得意ジャンルは、意外にもコメディだ。懐かしいところでは『空飛ぶモンティ・パイソン』(1969〜1974)。厳密に言えばドラマというよりコント番組に近いのだが、公共放送でここまでやって大丈夫? と心配になるレベルのブラック&ダークなギャグが満載だ。
『宇宙船レッド・ドワーフ号』(1988〜1999)のバカバカしさも忘れてはいけない。ホーキング博士も絶賛したという素晴らしいSF設定とは裏腹に、下品なギャグがこれでもかと散りばめられている人気作品だ。紳士の誉れ高いイギリス人だが、そのブラックぶりはアメリカ人のはるか上を行っている感じだ。
さらにさらに公共放送でこんなのやっちゃっていいの? と驚かされたのが、『ROME[ローマ]』。巨額のお金を注ぎ込んでアメリカのHBOと共同制作した歴史大作なのだが、これまたびっくりのエロ&バイオレンス度120%なのだ。なんてったって日本ではR−15指定いただいちゃってるんだから。NHKでそんなもの制作放送した日には、どんなことになるのやら……。想像するだけでも恐ろしいのに、BBC様はどこ吹く風。
かと思いきや『魔術師 MERLIN』みたいな「家族みんなで楽しんで〜!」的歴史ドラマもちゃっかり放送している。
いやあ、ただ者じゃないぞ、BBC。さらにさらに他にもBBCあっぱれポイントがある。それはネットとの融合! 1990年代半ばにはニュース・サイトを設置・拡充して大手新聞社サイトを凌駕。2004年からはオンデマンド・サービスである「アイプレイヤー」の試験放送に着手。これはYou Tubeが登場した2005年よりも早い時期、BBCの先見の明ハンパないぞ。結局BBCが牽引する形でイギリス・テレビ業界のオンデマンド化はあれよあれよという間に進化。今では「見逃し視聴は1ヶ月」「番組によっては半永久的」「ほとんどの番組がリルタイムで放送と同時にネットストリーム放送」というテレビとネットがボーダレスに近い状態を作り上げている。なんという先進国ぶり。
老舗公共放送でありながらチャレンジングなBBC、しばらく目が離せないだろう。
BBC永遠のライバル、ITV
1955年に開局したイギリスで最大&最古の民間放送局、別名チャンネル3(1と2はBBC)。先に説明したように、民放なのに公共放送というイギリス独自の不思議な立ち位置にある。
このITV、長い間BBCに対抗する唯一のライバルだった。なぜかというと、チャンネル4が出来るまで他に番組を制作して放送している局がなかったから。
というわけで、日本でも知られているイギリス製のドラマは、BBCじゃなければたいていはITVものなのだ。
まずはITV、いやいや世界でも一番のご長寿番組からご紹介しよう。1960年から半世紀以上も放送されているソープオペラ『コロネーション・ストリート』がそれだ。1956年からアメリカのCBSで放送されていた『As The World Turns (ATWT)』(アズ・ザ・ワールド・ターンズ)が2010年に放送終了したことから、今では世界最古のテレビドラマとしてギネス認定もされている。その人気に目をつけたのかどうかは知らないが、BBCが1985年から放送している『イーストエンダーズ』は明らかに『コロネーション・ストリート』の対抗馬として制作されている臭がプンプンしている。BBCの狙い通り、今では両作品の人気はいずれも劣らぬ感じのようだ。
最近はリブート版が話題の『サンダーバード』も実はITV作品。イギリスでは1965年から1966年にかけて放送された。たった1年しかやってなかったのかあ。日本では何度も放送されていたので、なんだかすごく長い間やっていたと思っちゃったよ。
そして『名探偵ポワロ』、24年の長きに渡って放送されていた。日本でもホームズに次ぐ人気を誇る探偵物で、吹き替え版も人気だった。NHKで放送されていたので、BBCドラマだと思われがちだが実はITV作品だった。最終回で視聴者も長い間騙されていたことを知るという大どんでん返しは必見だ。
最近の大ヒット作は、何と言っても『ダウントン・アビー』だろう。貴族と使用人のドロドロ劇を描いて世界中で人気になった。なにしろあのジョージ・クルーニー様まで「自分がファンだから」という理由で出演したのだから、アメリカでの人気も推して知るべしという感じだ。イギリスを訪れる観光客の間では、ロケ地のカントリー・ハウスを巡るツアーも人気らしい。
この大ヒットに気を良くしたITVが2匹目のドジョウを狙ったのが、『セルフリッジ 英国百貨店』。ロンドンの老舗デパートを大きくしていく実業家とその家族や従業員たちの姿を描いているので、『ダウントン・アビー』のビジネス版とも言われている。ご本家を抜くほど人気になるかどうか、みんなに見守られているところだ。
BBC項でも触れたが、実はギャグ・センスの高いイギリス。ITVだってちゃ〜んと人気コメディを作っていた。それは日本でも大人気の「変なおじさん」、そう、『Mr. ビーン』だ。テレビでの放送は1990年〜1995年だが、その後映画化もされ人気は普遍的に続いている。ロンドン・オリンピックでは開会式に登場するなど、イギリスを代表するキャラクターとしてその知名度は抜群だ。
いやあ、ITVさん、BBCに負けず劣らずの素晴らしいラインナップをありがとう。
意外に健闘しているチャンネル4
BBCの2チャンネルとITVに続く4番目の地上テレビ放送局として設立されたチャンネル4は、1982年に放送を開始した。運営は非営利法人が行うが、財源は広告放送という公共テレビ局。あ〜、何だかややこしい組織だ。
もともと「革新的で卓越性と多様性を持ち,教育的で質の高い放送」を求められているので、社会的弱者やLGBTといった少数派を対象とした番組の放送を積極的に行っている。
ドラマもかなりの数を放送しているのだが、残念ながら日本でもメジャーになったものはまだないのだ。
そのラインナップをご紹介すると、古いところでは『A Woman of Substance』、1985年のエミー賞ミニシリーズ作品賞部門にノミネートされた作品だ。家政婦から巨大デパートの経営者に上り詰めた女性の一生を描いた、バーバラ・テイラー・ブラッドフォードの同名小説を映像化したもの。開局してまだ日が浅い1985年に放送された本作は、未だに「チャンネル4で最も多くの視聴者を獲得した作品」として知られている。
他には『ハイっ、こちらIT課!』(2006〜2013)や『ピープ・ショー ボクたち妄想族』(2003〜2015)といったコメディ・ドラマが日本でも過去に放送されていた。
また、雷に打たれた5人の不良少年少女がサイキッカーになってしまう『Misfits/ミスフィッツ-俺たちエスパー!』は、アメリカでHulu配信され、人気を博した。いわゆるスーパーパワーものなのに、誰もヒーローにならずさして活躍もしない、しかも主人公はとってもお下品という設定が明らかにアメリカンではない。やっぱりイギリスって独特な何かがあると確信させてくれる作品なのだ。日本でもHulu配信されているので、視聴しやすい番組と言える。
2016年からはBBCが撤退したF1中継を引き継ぐことになったチャンネル4。これをきっかけに飛躍が期待されているので、是非是非ドラマでも世界的なヒット作品を期待したいところだ。
イギリス・テレビ界の末っ子FIVE
1997年開局の民放テレビ局。BBCの人気自動車番組『トップ・ギア』が終了した途端、スタッフ・出演者をごっそり引き抜いて『ファイブ・ギア』(タイトル、まんまじゃん!)という番組を始めたりしてなかなか意欲的なのだ。が、なぜかドラマに関しては外国製の番組を輸入して放送するばかり。
『NCIS』シリーズ、『キャッスル 〜ミステリー作家は事件がお好き』などアメリカの人気作品がラインナップされている。
まだまだ若い放送局なので、いつの日かオリジナルの人気作を輸出!なんてことを期待したい。
おわりに
チャンネルが5つしかなかったイギリスのテレビ事情が全国地デジ化で一気に変化したのは、2012年の事。チャンネル数は突然数十チャンネルになり、アメリカや日本と同じような有料チャンネルも登場した。
冒頭にご紹介したように、BBC主導のテレビ総ネット化が着実に定着し進化を続けているイギリス。最近ではテレビ放送に先駆けてオンデマンド配信するプログラムなども登場し、テレビとネットの関係がひっくり返る日が近いことを予感させている。
日本より、そしてある意味アメリカよりも進んでいるイギリス・テレビ事情からは、今後も目が離せないと言える。
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